動機づけ理論
マズローの欲求五段開設
A・H・マズローの欲求会創設は、人間の欲求を積み上げていくピラミッド式の図で表しました。低次の欲求から始まり、高次の欲求へと移っていくという考え方です。
【マズローの欲求五段階説】
人はまず生きていくために最低限の給与、お金が必要です(生存の欲求)。次に、職場の安全管理、ブラック企業ではないか、安心して働けるかといった点が重視されます(安全の欲求)。また、職場の人間関係が良好であれば、なおよいでしょう(社会的欲求)。会社を辞める理由の上位に人間関係があります。また、仕事そのものに誇りを持てるような、人に尊敬されるような仕事ができてればなお良いでしょう(尊厳の欲求)。最後に、もし、仕事を通じて自分の夢を実現できるのであれば、これほど望ましいことはありません(自己実現)。
仕事から得られるものは、経済学では、限界不効用と呼ばれるストレスだけと考えます。このストレスと会社からもらう実質賃金を比べて、働く量を決めるという極めて合理的な経済人モデルを想定します。こう考えると、人はお金のためだけに働いていることになります。しかし、果たして、仕事から得られるものはストレスだけなのでしょうか。坂本光司先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズを読むと、働くことの喜びや、人を大切にする会社のすばらしさを改めて感じることができます。
「日本で一番大切にしたい会社」
坂本光司先生がライフワークにされている、未来に残したい、日本にあるすばらしい会社をオムニバスで紹介されている本です。会社とは誰のためのものなのか、働くとは、といった心に深く刺さるお話に、まだまだ日本も捨てたものではないな~と感じることができます。日本理化学工業が障がい者を積極的に雇用するきっかけになったエピソードなど、感動のストーリーが並んでいます。
D.マクレガーのX理論 Y理論
マクレガーの1960年の著書「企業の人間的側面」で発表された理論。当時の伝統的理論で想定された労働者に対する管理をX理論、より高次の人間像に基づく労働者に対する管理をY理論と呼びます。
C.アージリスの個人と組織の不適合
アージリスの1957年の著書「組織とパーソナリティ」で発表された理論。個人と組織の間には根本的な不適合(経済的合理性を追求する会社組織と、自己実現を模索する個人との間の齟齬)が存在すると主張しています。
このような不適合を改善するためには、以下のような施策を採用することがあることを指摘されています。
①従業員の能力発揮の機会を増やす職務拡大
②参加型リーダーシップの導入
F.ハーズバーグの動機づけ理論
ハーズバーグの1966年の著書「仕事と人間性」で職務満足と職務不満足は異なる要因によって規定されると提唱しました。
職務満足を向上させる方法としては、労働者により大きな責任を与え、同時に権限移譲も行う職務充実や、担当する仕事の範囲を広げる職務拡充の重要性を唱えました。
R.リッカートの管理方式と生産性
リッカートは管理方式を、システム1(独善的専制型)、システム2(温情型専制性)、システム3(相談型)、システム4(集団参加型)に分類し、各類型と業績の関係を分析し、集団参加型システムが、最も優れていることを実証しました。
また、組織には原因変数(組織内の物事や結果に影響を与える要素)、仲介変数(組織内の相互作用に関する要素)、結果変数(組織の業績に関する要素)の3つの変数があり、原因変数であるリーダーシップを変えることにより仲介変数であるモラルが改善され、結果変数である業績の向上につながると唱えました。
V.H.ブルームの期待理論
ブルームの期待理論は、モチベーションがどのように生じるのかについて考察した、社員のやる気について研究したはじまりといえます。
ブルームは、1964年の著書「仕事とモチベーション」で、個人の動機づけは以下の三要素の積和によって形成されると唱えました。
モチベーション=期待×誘意性×道具性
また、ブルームは期待の相乗効果を得るためには、以下の3つを設定する必要があると唱えています。
- 魅力ある成果の設定(Reward)
- 成果を実現するのに必要充分な目標値の設定(Goal)
- 目標値を実現するのに必要充分な戦略展開(Efforts)
E.L.デシの内発的動機づけ
デジの内発的動機付けとは、賃金や昇進といった外的な報酬がなくとも、仕事そのものにやりがいや楽しさ喜びを感じ、積極的に業務に取り組んでいる状態のことを指します。
やや言い過ぎな気もしますが、デジに言わせれば、外的な動機づけであるお金などを中途半端に与えると、せっかくの内発的な動機づけである仕事そのものへのやりがいや尊厳、自己肯定や人に認められているといった気持ちにネガティブな影響を与え、かえってモチベーションが下がるケースがあることを指摘しています。
D.C.マクレランドとJ.W.アトキンソンの達成動機づけ
マクレランドは、仕事へのモチベーションに影響を及ぼす欲求として3種類の欲求次元を唱えました。ただし、この3種類に加え、失敗を回避しようとする回避欲求をのちに唱え、4種類の欲求としました。
一方、アトキンソンはある課題を達成しようとするモチベーションが強いほど、行動も伴うことになるが、どの程度現実可能かといった期待や、達成した際に得られるであろう価値に大きく影響を受けるとしました。
さらにモチベーションの持続や強さは、個人のパーソナリティ要因に依存するとしました。パーソナル要因とは、成功した場合に得られるメリットと失敗したときのデメリットを回避したいという気持ちのどちらが大きいかによって決まると唱えています。
意思決定論
C.I.バーナードの経営者の役割
バーナードは、アメリカ経営学を代表する学者で、1938年に名著「経営者の役割」を執筆しています。この著書のなかで、バーナードは、次の3点を論じています。
①組織
②意思決定
③権限
組織
バーナードは、ニュージャージ・ベル社の経営者としての知見を、上述の「経営者の役割」にまとめました。バーナードは、組織を人的、物的、社会的な複合システムである協働体系と捉えました。そのうえで、組織とは2人以上の人間からなる意識的に調整された活動や諸力のシステムと定義しました。
また、組織の成立に必要な3要素を以下のようにまとめています。
バーナードは組織均衡の条件として、誘因と貢献を挙げています。誘因とは組織が提供する報酬や昇給、昇進、表彰といったインセンティブのことを指し、貢献とは組織の構成員である個人の働きを指します。組織が均衡するためには、個人の貢献と同等もしくはそれ以上の誘因を示す必要があるとされています。
さらに、組織の持続性のためには、有効性と能率が必要だと唱えます。ここで、有効性とは組織目的の達成度、能率とは個人動機の充足度のことです。短期的には有効性または能率のいずれかが成立していればよいが、長期的な持続には、この両方が必要であるとしています。
意思決定
意思決定には、個人的な意思決定と、組織的な意思決定があると唱えます。
まずは、個人が組織へ参加し、貢献を行うかどうかを決定する際の意思決定です。会社に例えれば、就活の際にエントリーするかどうかの意思決定を学生が行うといった感じですね。
次に、個人が組織の一員として、組織の目的達成に向けて行う意思決定です。会社に入社すれば、会社の利益や目標のために社員として働く際に行う意思決定のイメージですね。
権限
バーナードは、権限について権限受容説(Acceptance Theory of Authority)を唱えました。従来の伝統的な管理論では権限委譲説の立場をとっていました。
権限委譲説とは、上司が部下に対して命令すること、上位の構成員が下位の構成員に対して、業務を任せた時点で成立すると考えます。
一方で、権限受容説では、上司が部下に対して、命令や任せただけでは成立せず、部下がそれを受け入れ行動したときに成立すると考えます。上司の命令を左から右に聞き流し、動かない部下ばかりだと、権限が成立しているとは言い難いという考え方です。
また、無関心圏というキーワードがあります。無関心圏とは、上司の命令に対して、何も考えず従順に受け入れることを意味します。無関心圏の構成員が多い組織は、指示命令系統がスムーズであることが予想されますので、公務員のようなお仕事には向いているかもしれませんが、一方で構成員が受動的であるため、新しい発想やアイデアなどが主体的には出にくいため、クリエイティブが要求される業種には向いていないことが考えられます。
H.A.サイモンの意思決定論
サイモンは経済学の分野でも貢献があり、1978年にノーベル経済学賞を受賞しています。1945年の「経営行動」で、バーナードの理論を発展させ、アメリカ経営学の礎を築きました。
サイモンのキーワードは、以下の2点があげられます。
①経営人モデル
②意思決定の過程と類型
経営人(管理人)モデル
経済学では合理的な経済人モデルを前提に話が進んでいきます。あらゆる選択肢の機会費用を考慮して、効用が最大化されるものを選択する人間像です。最近は、ゲーム理論や行動経済学といった分野では、感情的な人間像も考慮されていますので、経済学とひとくくりにはできませんが、保守派、古典派は基本的に経済人モデルを想定しています。
一方、サイモンは限られた範囲での制約された合理性を前提とします。人間はあらかじめ設定した条件を満たす選択肢のなかからできるだけベターと思われるものを選ぶという経営人モデルを唱えました。このような考え方を、経済の効用最大化理論に対して、満足度最大化(満足度原理)と呼びます。
意思決定の過程と類型
サイモンは意思決定をする前に、2つの前提があることを主張します。それが価値前提と事実前提です。いわるゆ、主観的な前提と、客観的な前提の2つがあるという考え方です。
価値基準とは、組織の目標や経営理念といった抽象的な数値化できない主観的な思いのようなイメージです。いわゆる価値観というもので、生まれ育った環境や生まれつきといった数値化できない感覚のようなものに影響されます。
一方の事実前提とは、手段選択に関する客観的な事実に基づく判断のことを指します。四半期のGDPや消費者物価指数、景況感や新型コロナウイルスの現状など、数値化できるデータから得られる客観的な事実です。
サイモンは客観化できない価値前提よりも、数値化できる事実前提を重視します。
また、サイモンは意思決定を次の2つに分類します。
①定型的意思決定
②非定型的意思決定
定型的意思決定とは、マニュアル化された、深い考察がなくてもルーティンワークとしてできる意思決定のことを指します。一方で、非定型的意思決定とは、決まったルーティンではなく、状況に応じて対応しなければならない意思決定を指します。
後述のアンゾフの階層別の意思決定の役割にも関係する内容となっています。
H.I.アンゾフの意思決定論
アンゾフは意思決定を3つの階層にわけて、それぞれの役割を明確にしています。
トップマネジメント層(社長や役員)は、会社の大きな方針やっ方向性を決める重要な意思決定をします。コンビニに例えると、本社で今後の市場の動向やライバルの動きなどを踏まえ、中・長期的な全社的戦略を策定するイメージです。
ミドルマネジメント層(支店長や部長)は、トップマネジメント層が決めた方針を実際に実現するための意思決定をしていきます。コンビニに例えると、エリア長が、本社が決めた戦略を実現するための具体的な数値目標などを策定し、エリアでの目標達成を目指します。
現場のリーダー層(現場監督やチームリーダー)は、現場を管理するため、定型的な意思決定を行います。コンビニに例えると、各店舗の店長が、アルバイトのシフトを組んだり、欠品補充のための発注を決定するイメージです。
ごみ箱モデル garbage can model
バーナードやサイモンの意思決定モデルが、理路整然と組み上げられているのに対して、J.G.マーチ、J.P.オルセン、M.D.コーエンが唱えたゴミ箱モデルは、より現実的な実際の場面で行われる意思決定のモデルです。目標や因果関係が不明確であいまいな状況での意思決定の過程を説明しています。
現実の意思決定の過程では、さまざまな要素が偶発的に絡み合って行われると唱えています。
ゴミ箱にたとえられた選択機会のなかに、問題・解・参加者が次々に無作為に投げ込まれ、次第にあふれるほどの量になっていきます。意思決定とは、このたまったものをカラにするために行われる行為と例えられます。
ゴミ箱にどのようなものが、どのくらい入っているかで意思決定はまったく異なるため、決まった型というものはなく、極めて流動的であると唱えます。
大雑把にまとめると、ある部屋(選択機会)に、だれでも自由に出たり入ったりでき(参加者)、自由に問題やその解決のためのアイデアを思いつくままホワイトボードに書いてるうちに、答えがみつかったという、ブレストをイメージするとよいと思います。