経営組織論
ライン組織
もっとも単純な組織形態です。命令の一元化の原則など、シンプルで責任と権限が明確で小規模な組織に向いています。学校の教室の先生と生徒のイメージです。
一方で、部下に対する命令は1人の上司から通達されることが多く、上司の責任が重くなり、作業能率も低下しやすいといったデメリットが指摘されます。
ライン・アンド・スタッフ組織
上述のライン組織にスタッフ部門を付加することで、命令の一元化を維持しつつ、スタッフの助言・勧告によって専門化の利益を活かすことを意図した組織形態です。スタッフ部門はライン部門に対して助言・勧告を行いますが、指揮・命令の権限はありません。生産や販売などの基幹業務を担当するライン部門に、企画や統制、人事などの業務を担当するスタッフ部門を配置させた組織形態です。
職能別組織
購買、製造、流通、販売、財務など職能部門別に編成される組織形態のことを指します。職能別組織では、専門領域に関する権限を各部門に委譲するが、個々の部門は費用責任を負うのみで自律的な単位ではなく、重要な意思決定はトップマネジメントが行います。そのため、職能別組織は事業部制に比べ、トップマネジメントに権限が集中しており、その負担は重いといえます。
ファンクショナル組織
職能的組織ともいわれ、テイラーが考案した職能別職長制度を原型とする組織であり、各管理者が特定の管理職能を担当し、専門化することによって作業能率の改善が図られますが、職能部門別に組織編成が行われるわけではありません。職能別組織との違いはこの点にあります。
専門家の原則に基づいて組織編成が行われるため、従業員の熟練の形成が促進されるなどの専門家の利益を享受できる一方、命令系統が多元化するため、責任と権限の所在が不明確になり、管理者間の意見調整が難しいというデメリットもあります。
プロジェクトチーム
プロジェクトチーム(タスクフォース)は、既存の組織ではうまく処理できない特別ないしは緊急な課題の解決に向けて、必要な人材を部門の枠を越えて招集し、編成する組織形態のことです。
公務員の業界では縦割り行政という批判がよく聞かれます。同じ建物で仕事をしていても、隣の部署が何をしているのか知らないといったことがあります。そこで、あるプロジェクト(子育て、未来を担う若者の育成など)について、省庁横断的(厚労省、文科省など)に人材を集め、知恵を持ち寄って、それぞれの立場からアイデアをだし、目標達成に向けて仕事をしていくケースが、プロジェクトチームに当たります。
一般的にプロジェクトチームは課題達成後に解散し、それに伴って各メンバーは元の所属部門に戻るため臨時的な組織形態といえます。
事業部制組織
事業部制組織は分権的な組織形態であり、1920年代にアメリカのデュポンやGMなどの大企業で導入されて以来、日本においても1950年代に電機、機械などの産業で普及しました。
事業部制は、本社が各事業部に対して大幅な権限委譲を行う分権的な組織であり、製品別や地域別、市場別などの形態があります。また、各事業部は本社のトップマネジメントに対して一定の利益責任を負うプロフィット・センター(利益責任単位)として機能します。単年度、半期、四半期などの短期的な間隔で利益責任を問われますので、長期的な展望にたった総合的な意思決定は本社が担います。
本社は、各事業部の売上高や利益額のほか、ROI(投資利益率)などの各種指標によって事業評価を行い、その結果に応じて次年度の資源配分などを決定します。
一般的に、本社、スタッフ部門、各事業部から構成されています。本社は全社的な戦略計画の策定や事業部長の任免、経営資源の配分、各事業部の業績管理・評価に専念し、それ以外の業務は各事業部に大幅な権限委譲を行います。そのため、事業部長は担当事業に関する全般的な意思決定を行う権限を持つため、将来の経営者候補ともいえます。
事業部組織のなかに市場における価格調整メカニズムを導入する手法として、忌避宣言権と社内振替価格があります。事業部間に競争原理を導入することで、組織運営の効率化を図ることを目的としています。
忌避宣言権制度とは、部品などを内製化するよりも外部から調達したほうが安価である場合、社内取引を回避して外部企業からの導入を選択する権限のことです。
社内振替価格制度とは、事業部間の資材取引の際に適用される決済価格であり、競争市場における市場価格に基づいて決定することで、事業部の効率向上の手段として利用されます。
事業部制の長所と短所
事業部制の長所
・各事業部が環境変化に柔軟に対応できることから、多角化し、複数の事業を展開する企業に適しています。
・各事業部が自律的な経営単位として活動するため、管理者と現場の距離が近く、一般従業員の動機づけが高まり、環境変化に対しても柔軟に対応できます。
・本社のトップ・マネジメントは、各事業部に権限委譲を行うため、全社的な戦略計画の遂行に専念できます。
・事業部長は担当事業について総合的な意思決定を行えるので、将来のトップマネジメントを育成できます。
事業部制の短所
・事業部制組織が大規模化すると、各事業部に総務や経理など類似部門が設置されるため、全社的な経営資源の重複が生じやすく、非効率になってしまいます。
・各事業部は個別市場の利益追求を担当するため、組織全体による大規模利益の喪失、また、過度の分権化が進むことで、全体計画から一部の事業部が逸脱し、組織全体の統一性の困難性が発生します。
・各事業部は分権化された自律的な組織単位であるため、事業部間の意思疎通や依存度は低くなります。そのため、複数の事業部にまたがる製品開発や技術革新にうまく対応できない可能性があります。
戦略的事業単位(SBU)
SBU(Strategic Business Unit)は、既存の事業部制では対応できない新たな市場開拓を戦略的に行うために設置する事業単位であり、1970年代にゼネラル・エレクトリック社が自社の肥大化した事業部制組織の限界を克服するために導入したケースが代表的な事例です。
通常、SBUは本社の直轄部門あるいは事業部に重ね合わせるように設置され、必要な場合は他の事業部の協力を要請し、事業部を横断的に活動します。また、SBUの事業が軌道に乗った場合は新規の事業部として独立することもあります。
マトリックス組織
マトリックス組織は、1960年代にアメリカのアポロ計画に導入されて以来、航空宇宙産業を中心に普及していきました。経営資源の効率的な活用と各プロジェクトの目的達成を同時に実現することを意図した組織形態です。
一般的なマトリックス組織は臨時的なプロジェクトチームを恒常化し、職能別または地域別などの調整機能を付加した形態であり、二重の命令系統を持つことからワンマン・ツーボス・システムと呼ばれます。安定性のある職能別組織を縦軸に、機動性のある目的別の横断的組織を横軸に組み合わせた組織形態であり、環境の変化への対応や人的資源の活用に優れています。
長所としては、複数のプロジェクトや製品事業の進捗管理と、職能別、地域別の管理・統制を同時に実現できるため、事業部制のように経営資源の重複が発生しません。また、綿密な管理体制によって、環境変化に対して柔軟に対応できるため、効率的な資源配分を行えます。
短所としては、二重の命令系統のため、責任の所在や権限の優先順位が不明確になりやすく、複数の意思決定過程を経由するため、意思決定の迅速さに欠けるなどが挙げられます。
カンパニー制
事業部制組織の分権化をさらに進め、事実上、分社化した組織形態です。既存の事業部を疑似的な独立子会社に見立てます。アメリカ企業の事業部制にみられる分権化が進んだインベストメント・センターと類似です。本社は各カンパニーの事業部の長に包括的な裁量権を与えるとともに資本を投下し、カンパニー側は年度ごとに損益計算を行い、本社に利益還元します。
社内ベンチャー
社内で企業家精神を持った有能な人材を募ることにより、新しく設置される独立性の高い事業創造型の組織形態であり、リーダーには、事業創造に関する広範な権限と資源が与えられます。